第13期生 小池啓子さん

現在のお仕事について簡単にご紹介いただけますか。

短期大学の看護学科で講師として勤務しています。現在の担当領域は在宅看護学で、領域全体を取りまとめる役割を担っているため、他領域との関連性を横断的に捉えた科目デザイン、授業設計、実践に加え、同僚の授業設計やLMS活用に関する相談に応じ、お手伝いさせていただいています。また、学生の生活・学習アドバイザー制度がある短大なので、学生個々の学習支援について模索と実践を続けています。

本専攻に入学しようと思ったきっかけを教えてください

“看護師教育ってこれでいいのだろうか”という漠然とした課題意識を持ち続けていたこと、それに伴い落ち込み、廃人化していた時期に偶然鈴木克明先生に出会ったことがGSIS(※注1)に没入するきっかけとなりました。

臨地での看護師経験を経て看護教員と呼ばれる職種に就いて10年ほど経った専門学校勤務時代に、同僚や他校の教員から授業参観を受け、「先生の授業はおもしろい、コツは何?」と言っていただく機会が増えた時期があります。学生からは「先生の授業は眠くならない」「あっというまに時間が過ぎて勉強したという気持ちになる」という自由記述を添えて授業評価をいただいていましたが、なんとなく自分では納得していませんでした。当時、自分なりに授業の工夫をしていたのは事実ですが、それをうまく説明できずにいたからです。また、おもしろければいいのか?勉強した気持ちになればいいのか?という疑問も持っていました。学生にとって“おもしろい”と思える学習機会を提供できるのはいいけれど、学習目標を達成するための介入ができているのだろうか、いや、そもそも学習目標自体が評価しにくいから“なんとなく”評価しているような気がする・・いやいや、こんな疑問を持つ以前に、看護師経験だけで【先生】と呼ばれてしまう職に就いていいのだろうか、だってわたし、学生の時成績悪すぎたし、こんなわたしが【先生】やってちゃマズイだろ・・と次々とネガティブキーワードが出てくる始末でした(楽しんでいましたけど葛藤がひどかったです)。

葛藤とネガティブは続きます。専門学校で教員経験を積んだのちに現職に就いた頃に撃沈&挫折します。“わたしの行動は、自分の学習経験と看護師経験と教育経験に頼っているだけかもしれない”ということが前面に出てきて自分を襲い出しました。現職場で働き始めた頃、それまでの専門学校での経験から、“この内容と方法なら、学生が興味を持って取り組むはずだ!”という自信のある内容と授業スタイルであっても、他の教員が納得するように説明できず、とても悔しい思いをしたことが多かったです。そしてこれが続くと悔しさを越えて無力感に苛まれます。自分の資質や力量を疑い、すべて投げ出したくなった暗闇時代が長く続きました。その時、偶然参加した学術集会でお目にかかったのが当時、前期課程専攻長だった鈴木克明先生でした。鈴木先生のお話を聞いたときに、全身に電気が走るような、心臓が音を立てて鳴り出して血液が巡りだすような衝撃がありました(大げさではなく、本当に)。暗闇で廃人のようになり、枯渇していた脳と心に急速に浸透してきたのが、鈴木先生の独特の語りの中に紡がれる“インストラクショナルデザイン”だったのです。“自分がやっていることはまぁまぁよかったのかもしれない、だけど、それは経験や勘でやりきるものではない、もっとシステマティックにできる、そうすれば、なぜおもしろくできるのか、学生が学びたくなるためにはなぜ、その方法が必要なのかを自信をもって発信したり行動できる”と感じました。そうすることで、学生への還元だけでなく「その授業をするコツはなに?」と聞いてくださった教員仲間にも説明ができる。廃人だったわたしがかすかに差し込む光を見た瞬間でした。鈴木先生のお話を聞きながら、すぐにその場でGSISを検索し、“ここで学びたい、この先生のところで学びたい”という欲求にかられました。熊本って行ったことないけど大丈夫かな、オンライン大学院ってなんだろ、と、GSISの全貌がどのようなものなのかわからないままに門を叩きました。鈴木先生に出会って半年後に科目等履修生(※注2)に、そして、1年半の科目等履修生を経て2018年4月に生科生として、濃厚なGSIS生の生活が始まりました。

※注1 GSISとは
教授システム学専攻の英訳(Graduate School of Instructional Systems)の頭文字からとった専攻の略称。在校生や同窓生は、親しみを込めて本専攻のことをGSIS(ジーシス)と呼んでいる。

※注2 科目等履修生制度とは
専攻に入学した学生以外の者が、授業科目を履修できる制度です。正規学生同様に試験を受け、単位を習得することができます。修得した単位は、正規学生として入学した際に、申請により上限10単位まで認定されます。詳細はこちら

実際に入学されて、いかがですか。

IDを学ぼうとしたらITも必須だった、という、わたしにとっての苦行からお話します。これは科目等履修生の頃から親しくしている同期とよく話すのですが、「まさかのITに泣きを見る」という経験です(今となっては笑い話)。

GSISはID,IT,IM,IPが主幹のカリキュラムですから当然なのですが、ITについてわたしはド素人で、プログラミング言語がウンヌンカンヌンという学習や、チームでeラーニングを作るという科目は苦行でした。まさか自分がこの分野の学習をする日が来るとは思わなかったです、しかも“必修”で。課題終わる気がしない、単位取れる気がしない、できるようになれる気がしない・・が先行しましたが、たくさんのサポートをいただき、気が付いたら無事に終わっていました(泣きながらでしたけど)。そして、終わってみたら“やってよかった”(ARCSのSに到達)。2020年度からはコロナ禍で自組織でもLMSを導入することになり、今となっては“GSISでIT系を学んで、ヘタなりに実践できるようになっておいてよかった・・・”“LMSの導入?LMSに授業実装?オッケー、任せてください!”“GSISで学んだことが役立ちすぎている2020年だった・・もっとよくするにはどうするか・・”と、時代に伴い変化が求められる看護教育の現場で活動できている自分があるのはGSISのおかげです(ARCSのSパワーアップ、そしてV)。

本務である看護師教育に関しても、基礎教育における科目デザイン、授業設計や、現任看護師対象の研修設計について、実際に使うものにするべくID科目の中で本気で設計し、学びながら実務で使うサイクルを回していました。ここがGSISのカリキュラムのすごいところだな、と思うのですが、実務に直結させて学び、行動に移し、省察し改善する仕掛けが施されています。カリキュラム自体がIDなんだ、と気づいてからは、看護学生への授業に取り入れるべく、某科目のタスクの進め方を参考に、自分の担当科目に取り入れてみたりもしました。看護師育成に関することを、看護師から教わるだけでなく、教育工学の専門家の先生方から仕事直結のヒントやご指導をいただける、なんとも贅沢な毎日でした。伝承的な教育を打破するためには、看護師資格と看護師経験、看護教員資格と教員経験だけでは私には足りなかったんです。課題や研究については、それはもちろん大変だなと思うこともありましたが、激しく学ぶ中には、“悔しさと切なさと心もとなさ”とともに、幸福感が交差していました。不思議な感覚でした、大変だし難しいことも山積だし寝不足なのに幸福感があるって(フロー状態だったんだと思います)。

学んでいることは、どのように役立っていますか?

役立っていることベスト2を挙げます。
①なにかと“これは効果あるのか”“もっと効率よくできないだろうか”“学習者が勝手に学び続けるための作戦はなにか”と考えて行動するのが習慣になっているので、ブレない。
②LMSを活用してフルオンライン科目を構築した2020年度、LMSへの授業実装も、取り扱いもさほど苦ではなく、学生や教員へのサポートに役立った。
①も②も、インストラクショナルデザインを知らない、やろうとしない、できないままの自分だったら、カリキュラム改正を控える看護師教育×コロナ禍に対応できていなかったと思います。あの時“GSISで学びたい”という直感を信じ、行動してよかったなと思っています。

普段は、どのように学習を進めていますか?

とにかく勤務時間内に仕事を終えてさっさと退勤して、夜と休日の一部を学習時間にしました。個人学習だけでなく、他院生との相互コメントを要する科目や、チームで課題に取り組む科目もあったので、帰宅してからの2、3時間は計画的にタスクに取り組むことを習慣にしていました。しかしたまにはサボりデーも作りました(当然)。持ち帰り仕事が多い職種ですが、同領域を担う相棒の理解とサポートのおかげで、持ち帰り仕事を最小限に、“夜は学習”というライフスタイルを確立できていました。同僚にも感謝しています。

学生間のコミュニケーションはどのようにとられていますか?

なかなか会う機会がないのがGSISなので、次の4つの場面を大切にしてきました。
(1)各科目内での相互コメントを楽しむ
(2)SNSやオフィスアワーを活用して交流する
(3)“オプション”と呼ばれる対面の機会を大事にする
(4)同窓生や在学生と研究について語り合うゼミへの参加
各科目のタスクでは相互コメントを求められます。これ、わたしは楽しかったです。職種や価値観や考え方が異なっていても、目指しているところが同じなので建設的に意見交換ができるし、自分に足りない視点を時に優しく時に辛辣にコメントしてくれる同期の存在はありがたく心強いんです。そして“負けないぞー!!”という変な闘争心を持って楽しみました。相互コメントで支援しあった仲間は戦友であり老後まで親友です(一方的に思ってるだけかもしれませんが)。また、専攻が関連する対面の機会にはできるだけ参加しました。学術集会や専攻合宿等で会える機会には拙い研究を引っ提げて指導を求めに、さらにわたしは研究主指導であった合田美子先生の定期ゼミがあったので可能な限り参加させていただきました。そこでは同窓生のみなさんとも交流を持つことができ、それがきっかけでいろいろな学習機会の情報を得て、参加させていただいています。定期ゼミで先生や同窓生のみなさんに会えて、研究のアドバイスをいただいてワイワイ食事をする、という時間は、学習意欲の維持はもちろんですが、駆け込み寺のような、自分を取り戻すことができる機会でした。会って直接話せた時の喜びみたいなものは、対面ベースの大学院では味わえない、オンライン大学院だからこそのものかもしれません。

先生とのコミュニケーションはどのようにとられていますか?

GSISの門を叩いたばかりの頃は、鈴木先生のことしか存じ上げない状態でしたが、学習を進めていくうちに困ったことや質問をメールしたり、課題へのフィードバックをいただくうちに、少しずつ先生方の超得意分野ですとか、個性が見えてきて、ジワジワと会いたくなってくるんですよね。そこで、オフィスアワーや合宿を活用します。実際に初対面した時は「あ、本物の〇〇先生だ~」と、会えないアイドルに会ったときの気分です。個性的で魅力的な先生方との出会いも宝物です。学習や研究意欲を尊重し、あたたかくサポートし続けて先を照らしてくださる先生、時に愛ある厳しいご指摘とご指導をくださり、さらに仕事上の人間関係の悩みにも助言してくださる父のような先生、話すとマニアックで謎が多い印象なのに相談事には簡潔明瞭に腑に落ちるアドバイスをくださる先生、課題はやってみて30分悩んでもわからないものはSOSを出していいと言ってくださるIT科目の先生方には、メールや対面、Zoomで多くの相談をさせていただき助けていただきました。

また、わたしの場合は、研究主指導の合田先生が定期的にゼミを開催してくださっていたことが研究を進めていく計画や内容について相談させていただく上で本当にありがたかったです。自分と同世代の先生方も多いので、学習や研究の話に加え、雑談も楽しくて、とにかく会える時は会いたい、というマインドでした。

専攻を修了して得た収穫はなんですか?

収穫1.“看護師教育ってこれでいいのだろうか”の現状分析と改善が日常に。
収穫2.温めていた気持ちを形に。現任看護師対象の研修設計と実践にチャレンジ。
収穫3.異業種交流のおもしろさ。目指すところが共通であることの人間関係マジック。

本専攻に入学しようと思ったきっかけは、冒頭でもお話ししましたが“看護師教育ってこれでいいのだろうか”という課題意識を持っていたことでした。内容も教え方も含めて。それに対し専攻の科目は様々な切り口からこの課題意識に対し「いや、それはダメだろう」「もっとこうすればいいんじゃないの?」という示唆を与えてくれるものばかりでした。基盤的教育論やID1、ID2をベースに,教育ビジネス経営論、知的財産権および知見という科目で得た知見と経験は、「授業を変えましょう」「カリキュラム見直しませんか」と提案するときに、“なぜならば”を添えて例示できています。収穫2は中規模病院に看護師として勤務をしていたころから温めつづけていた思いを形にできたことです。看護師は患者と向き合っているときが一番やりがいを感じていたりします。キャリアラダーの点をとるためのアリバイみたいな研修に“一応参加する”とか、看護師長から「順番だから参加しなさい」と言われしぶしぶ参加する研修、夜勤明けに講師が延々自分の経験だけを語る研修のつまらなさと眠さと言ったら・・・それは経験から痛いほどわかっていました。研修ってそういうことじゃないよな・・・を見直し、実践できたこと、そしてまだまだやりたいことがある。これが大収穫です。ID2で研修設計をするときは本気すぎて殺気立っていたかもしれません。

そしてなにより、仲間の存在です。全く異なる業種であっても、同じ方向を向いているとこんなにも安全で安心な関係を築けるんだな、とつくづく思います。同期に医療職が多いのも心強かったです。

異業種×アカデミック×誰かをハッピーにする活動(ID)=自分の仕事を批判的に見続け、改善することができる。この出会いは人生における大収穫です。看護系の学びの機会だけでは出会えなかった仲間ですし、看護系ではない人からいただく意見の的確さと手厳しさは、偏りがちなわたしの頭を沸騰させてくれる燃料です。40歳代になってこういう出会いがあるのって幸せです。

最後に、これから入学を考えている人にメッセージをお願いします。

誰かの学びと成長を支援したい、もっと良い方法でなんとかしたい、という思いや役割を持ち、少しメラメラと、モンモンとした気持ちを秘めている、だけどちょっと迷っているという方はまずは科目履修や公開講座の機会でGSISを体感してみるのもよいかもしれません。オンライン大学院でやれるかな、ITできるかな(逆にIT系の方は教育なんて自分にできるかな)、独学でやりきれるのかな、仕事と並行してやれるのかな、など、人それぞれ踏みとどまってしまう壁があるかもしれません。けれど、先生方、事務部門の方々、eラーニング推進センターのみなさま、同窓生がサポートしてくださる環境があるのがGSISです。そのサポーティブさそのものからもわたしは多くを学ばせていただいています。そしてわたしも修了生として、これから出会う誰かのメラメラに対し少しでも!いつでも!どんな業種でも!一つでもお役に立てる者であるために、修行を続けながら火種を灯し続けておくこととします。これを読んでくださった方とワイワイ語り合える日が来ることを楽しみにしています。

(2021年4月メールインタビュー)

※ 登場している方々のご所属および本専攻のカリキュラムや科目に関する記述は、インタビュー当時のものです。